残念な勉強法

これは止めたい、フランス語を話せるようになりたい方にとっての残念な勉強法

今回は、語学関係のブログ、学習者の交流の掲示板などでよく見かける勉強法で、見る度に残念に思う勉強法について書きたいと思います。実は私もフランス語以外の外国語でやってましたし、今もうっかりやりそうになる勉強法でもあります。それぐらい引力が強く、学習熱心な人ほどついやってしまう勉強法なのですが、実はこれ、フランス語が話せるようになりたい、と思っている方にはあまり効果がない勉強法です。(フランス語に限りませんが一応フランス語を中心に話を進めます。)

ついやってしまいがちな残念なフランス語勉強法

その残念な勉強法とは、ある1冊の本、文法書とか文法の練習問題の本が多いのですが、そういう本を何度も最初から最後まで勉強していくやり方です。中にはこれで3周目に入りました!とか報告している記事を目にしたこともありました。毎日1時間やってます、とか書いてあったこともありました。

1冊の本をみっちり

基礎文法は必須ですし、文法以外の作文や例文がまとめてある本で勉強なさることは全く悪いことではありません。そして真面目に勉強されているのも確かです。ただ熱心であるだけに残念なやり方と言うしかありません。勉強の目的が何なのかにもよりますが、話したり聞いたりする力を伸ばしたい、運用できるようになりたい、という場合は効果がほぼないと思います。フランス語と構造の似た別の言語をすでに流暢に話す方は、基本的な単語や動詞の活用を一通り練習すれば、すでに上級であるもう一つの言語の力を借りてある程度話すことができるようになると思いますので、この勉強法でも残念ではないのですが、そうでない方で、フランス語を実際に使えるようになりたい、会話がしたい、映画を見て分かるようになりたい、という場合はこのやり方では大きな効果は期待できません。

もちろん基礎文法は本当にとても大切なので文法の練習問題の本が悪いわけではありません。そういう勉強は必要です。またそういう勉強を通して文法知識や語彙が増えていきますからネットの記事や新聞を読んだり、映画を聞いていて分かるところが少しずつ増えていくこともあります。なので全くの無駄、とまでは言いませんが、会話力やリスニング力を育てたい場合は、これだけでは不十分です。

そもそもなぜ、1冊やった後、もう一度最初からやり直してさらに2周目、3周目がやりたくなるのでしょうか。身についていないな~って思うからですよね。じゃあ同じことをもう一回やったら、身につくのでしょうか。残念ですが私は身につかないと思います。

勉強に使っているのは定評のある本だったりしますから、会話ができないのは、ニュースや映画を見たりしても理解できないのは、本の内容が理解できていないから、と思ってしまい、だからもう一度最初からやれば、と思うんですよね。実はそれが違います。

ここが重要!

どうしてダメなの?

まず本の内容を完璧に覚えて練習問題が全問正解になっても会話がスムーズにできたり映画が分かったりするとは限りません。もちろん語彙や文法の知識が増えれば分かる部分が増えるでしょう。でもそれだけでは会話はできません。どうしてでしょう?

まず、会話や映画では処理スピードが速くないとついていけません。この勉強法ではそれは養われないと思います。実際の聞く、話す、という言語使用場面では、うーん、って考えて、これが動詞で…とか分析している考えている暇はないです。

もちろん、これは動詞で、活用がこうだから、と言いながら勉強して、練習問題で慣れていくのは必要ですから、勉強の取り掛かりとしては正しいやり方です。ただそれだけをやっていてもダメです。

じゃあどうすればいいのでしょうか。やはり、自然な談話の音声をいろいろ聞いて慣れていくしかないと思います。

自然なスピード、不完全な発話に慣れていこう

初心者のうちは自然な話し方に近い音声教材でもいいでしょう。でもなるべく早いうちに生のものを見たり聞いたりしてください。できればスクリプトがあって分からないところを文字で確認できる方がいいです。同じ動画や音声を何度も見たり聞いたりして、話されるスピードで意味を掴む訓練をしていきましょう。分からないところがあっても、話全体の意味が分かることも多いので気軽に挑戦することが大切です。気に入ったものがあれば、同じものを何度も聞いているうちに、最初聞き取れなかったことが聞き取れるようになっていることに気が付くはずです。

音声教材を勉強中

また、自然な発話って、きちんとした文になっていなくて文法がおかしかったり、言い淀んだり、言い間違えて言い直したり、同じことを何度も言ったりします。文法書とか練習問題は完璧な構成の無駄のない文しか出て来ないですが、現実の言語活動はそうではありません。

これは昔、パリ大学で言語学を専攻していた時に談話の研究でスクリプトを作って分析していたときに気が付いたことですが、今もレッスンのためにYouTubeの動画のスクリプトを作っていると思います。文字にして書き起こすときちんとした文があまりなく変な話し方に見えるのですが、聞いていると全く違和感がない、ということがよくあります。だから現実には完璧な文法知識だけあってもダメで、言い淀んだり言い直したりの中から重要なメッセージを拾って理解する能力が必要で、これは同時通訳をしている時も思います。

映画やインタビュー映像やラジオ番組でも原稿を読み上げているものでなければ自然な発話に近いですから、不完全な文が出てきます。そして話し手や地方によっては一般に正しいとされる文法とは違う言い方が多くされていることがあります。そういう場合、あまり細かい文法にこだわっていてはかえって理解から遠ざかります。文法知識は必要なのですが、会話力を伸ばしたい場合は、文法は手段であって目的ではないということですね。

話す力、聞く力を伸ばしたい方は、一通り基礎文法を勉強したら、一文一文の例文ではなく何らかのストーリーや内容のあるものを聞いたり見たりしてフランス語に触れていき、その中で理解力を伸ばすようにしていかれると良いと思います。一冊の本を何度も丁寧に復習するより、いろいろなものを見たり聞いたりする中で忘れていた文法事項を見直して重要な文法事項を復習する方が、実践に即した力が養われます。