Aubrac

愛らしいフランスの牛 ― フランスの酪農家訪問 ―ついでにボキャブラリー

フランス中央山岳地帯の牛のお話です。ついでに牛関係のボキャブラリーを紹介したいと思います。伝統的な農業国で、牛はフランス人の生活に古くから深く関わってきたのでしょう。日本語よりも細かい語彙がたくさんあります。

先日、通訳で中央山岳地帯の方に出張しました。のどかなところで農業高校の視察や市長など関係者との会食、表敬訪問などが予定されていたので視察先の高校やその市について予習して行きましたが、酪農家視察が加わり酪農家に行くことに。そこで丁寧な説明を受け、農家経営戦略の興味深い話を聞きました。

ここで紹介したいのはその地方の牛です。Aubracという品種の牛で、酪農家訪問前の会食中に非常に愛らしい顔をしており、特に目が綺麗で化粧でもしたような目をしている、という話を聞きました。

フランスの牛 Aubrac

実際に見に行ってみると、確かに可愛らしい。そして目の周りにこのようにアイラインが入っていてまつ毛も長い。茶色の色合いも温かみがあり、愛らしさが増す感じでした。リヨンに住んでいる私は、牛と言うとリヨンの北にシャロレ牛で有名な地域があり、そこの白い牛をイメージします。ですからこの暖色の茶色と独特の白いアクセントがちょっと珍しく思えました。

酪農家ですから乳牛なのですが肉も食べられるので年を取ったら肉牛になるとか、種牛として群れの中に牡牛が一頭だけいるとか、若い雌牛と仔牛は別の場所にいるとか、いろいろと農家の経営管理のお話を聞きました。この業界ではどれも常識的なことなのでしょうが普段農村とは縁がない生活をしているために、干し草の種類の話、牛の飼料の話など、どれも私にとっては珍しく興味深いお話でした。

一画に小さなアパートのように仕切られた部分があり、一頭ずつ仔牛が座り込んでいました。生後2週間と聞きましたが仔牛と言っても結構大きいんです。その仔牛たちは雌雄で場所が違っており、雄の仔牛たちは乳牛にならないのでスペインに売られていく、とのことでした。売った先でどうなるのか質問したら、さあ、肉にするんじゃないのかな、と言っていました。つぶらな瞳の仔牛たちを見て「この子たち、スペインに売られちゃうのか。ドナドナだな。」と日本人のお客様がつぶやき、私もあのメロディーが頭に浮かびました。みんな可愛い顔をしていて可哀そうな気がしたのですが、無用な感傷ですね。これが生業なのですから採算を取り、商売として成り立たせなければなりません。牛たちを大事にして世話をなさっているのが感じられましたが、ビジネス戦略も忘れてはおらずしっかり経営されているお話振りでした。

さて、フランス語を勉強なさっている方やフランス語に興味がある方のためにボキャブラリーを紹介します。これが結構たくさんあります。

まず初心者、初級者向けの語彙としては以下です。

  • vache  雌牛、当然女性名詞ですから une vache。乳牛の場合、必然的にこの単語ですね。だからよく使われます。
  • bœuf 去勢した雄の牛。男性名詞なので un bœuf。牛肉と言う意味にもなります(その場合はdu boeuf → フランス語の冠詞についてはこちら)。この辺りも肉に回すのは一般にオス、という事情と無縁ではないように思われます。
  • taureau 去勢されていない雄牛、当然男性名詞なので un taureau、複数形はdes taureaux(フランス語の複数形についてはこちら)
  • veau 仔牛、男性名詞なので un veau、複数なら des veaux

一般的にここまで知っていれば日常生活には十分です。中級レベルの単語としてこちらを挙げておきます。

  • bovin 「牛の」という形容詞にもなりますが、牛、家畜牛を指す総称。

そしてここからがちょっとマニアックな世界です。牛マニアまたはプロ向けボキャブラリーですね。

  • taurillon  交尾経験のない若い雄牛、当然男性名詞なので un taurillon。若いって何才?と思いましたが、2歳になる前に屠殺された牛の肉をこの名称で呼ぶようなので、まあ2歳ぐらいまでということではないでしょうか。
  • génisse 辞書を見ると未経産雌牛、と書いてあります。メスだから女性名詞で une génisseですね。この単語は現場で突然出て来て、知らなかったので教えてもらいました。案内人としてその場にいた農場経営者ではないフランス人が、自分も都市の育ちなのでこの地方に住む前はこんな言葉は知らなかった、と言っていました。
  • velle 雌の仔牛。une velles。これは手元の仏和大辞典にもRobertの仏仏辞典にも載っていません。超マニアックな語彙ではないでしょうか。ネットの説明によるとle petit non sevré de la vache de sexe fémininとありましたので乳離れしていない雌の仔牛を指します。一般には仔牛は雌雄に関係なくveauと言います。仔牛の肉もdu veauです。上に書いた事情から実際には多分雄の肉なことがほとんどなのでしょう。
  • broutard これもマニアックです。男性名詞なので un broutard。知りませんでしたがこれは仏和辞典に載っていました。離乳期の仔牛、だそうです。辞書には生後6~8か月と書いてありました。

一般的な家畜の牛ではないと思うのですが、牛の仲間として一応挙げておきます。

  • buffle  水牛です。男性名詞なので un buffle
  • bufflesse 雌の水牛(やっぱりあるんですね。知りませんでした)。une bufflesse。
  • bufflon 若い牛(出たー。)、un bufflon。-onという接尾語、動物の子供によく使われるのでこれは知らなくてもbuffleの子だと見当がつきます。
  • bufflonne 雌の水牛 une bufflonne 手元の仏和辞典には載っておらず、ネットにはbufflesseと同じだと書いてある頁もありましたが、普通に考えて、bufflonの女性形ですから若い雌の水牛でしょう。

こちらはさらにおまけです。どちらもフランスでは、いるとしても動物園にしかいないでしょう。

  • zébu コブウシ、とかゼビューウシとか呼ぶらしいアジアやアフリカにいる背中にこぶのある牛 un zébu
  • yak ヤク 
Lamborghini

息子が中学生の頃に車の話をしていて、私がランボルギーニのマークは牛だ、と日本語で言ったら、息子が絶対に違う、と大反対をして話を聞いていたら牛=vacheだと思ったらしいのです。Taureauだから違うと思ったようです。日本語はどちらも牛で良いと思うんですが、確かに上のロゴを見てもこれは明らかに雄牛ですね。

参考リンク:

これは肉についての記事なのですが、牛関係の単語がまとめてありました。La différence entre vache, bœuf,  tarureau, génisse etc